北海道乗りつぶし旅行記プログ暫定版・第2回
こんばんは。
11月3日に公開した旅行記を分割して公開します。今回はその第2回(全10回)です。
なお未公開ストーリーやデータなど(ボリュームは暫定版の2倍以上!)を掲載した『完全版』は、12月6日に東京・大田区(京急蒲田)のPioで開催予定の『第9回文学フリマ』で公開予定です。
ブログ暫定版は初稿のままの公開なので、一部データに誤りがあります。ご了承下さい。
【第一章・作戦コード1954&2110 ~指令伝達・爆走せよ!~】
普通列車を乗り継いで東北本線を北上し、青森駅に到着したのは17時頃。ここまでの経緯は機密事項が多々含まれているので、第9回文学フリマで公開予定の『旅行記完全版』をご覧いただきたい。
さて、青森駅のホームに並び始めた時間は19時頃で、4番線に着くと〔はまなす〕9、10、11号車乗り場には数人が並んでいた。
そのうち、ボクは10号車前方の乗り場に並ぶ。前に並んでいるのは一人だけで、この位置なら確実に座る事が出来る。座席も思いのままだ。
狙っている席は車輌端の通路側だった。なぜならボクは終点の札幌まで乗らず、途中の東室蘭で下車するので、降りやすいその位置がベストなのだ。もし車輌の奥に座ってしまうと、立ち乗り客によって通路が塞がれていて列車を降りられない可能性もある。この時点でその心配はなくなり、ホッと息を吐いた。
ボクは早速、リュックの中から敷物を出してホームに座った。こうして列車が入線するのを待つ。この敷物は座席に座れなかった場合の事を考えて持ってきたものだが、順番待ちでも役に立ったのは嬉しい誤算だった。
列車の入線は22時12分。3時間ほど待つ必要があるが、この時にはいつもの楽観的な性格が顔を出す。
「ま、別にする事もないし、ドラマCDでも聴きながら待てばいいや。石の上にも3年、ホームの上にも3時間さっ!」
長時間の移動と待ち時間が予想されるため、自室のラックの奥に未聴のまま何年も放置されていた数種類のドラマCD(ゲーム原作系)をiPodに落としてきたのだ。ただ、結局は最近の歌やBGMばかりを聴いていたので、ドラマCDのストーリーは未だに不明だ。
こうして雑草のようにホームの上に根を生やしたボクは、寒い海風の吹く中で列車の入線を待つのだった。
やがて時計の針は19時50分を指す。つまり運命の時が迫ってきたのだ。
上野から普通列車を乗り継いで北上してきた最初のグループが、八戸18時20分発の579M列車で19時54分に到着する。熾烈な生き残り合戦がもうすぐ本格的に開始される。
程なくボクの耳には、
「そして本日のその時、19時54分がやってきたのでございます」
と、NHKの某歴史番組(すでに放送終了)におけるMアナウンサーのナレーションが聞こえたような気がした。
なお、このMとはイニシャルであり、マゾという意味ではない。ボクは彼がマゾかどうかは知らないし、誤解されようが知った事ではないが、トラブルになっても困るのでこうして補足説明をしておく。
579M列車を降りたライバルたちは、地響きを立てて4番線ホームを爆走してきた。中にはボクの姿を見つけて興奮し、どさくさに紛れて迫ろうとした女性も含まれていたかもしれないが、あの混乱状態では確認のしようがない。
その様子はまさに怒濤の進撃、ヨーロッパの牛追い祭りを正面から眺めているようだった。真っ直ぐにボクたちの待つ乗り場へ向かってきて、より空いている乗り場を見極めながら列に並ぶ。
彼らにとってボクを含めた先発隊の存在は想定外だったようだ。その瞳には戸惑いの色が浮かび、合点がいかないといったような顔をしている。
おそらくは『自分たちは上野発の一番列車を乗り継いできたのだから、先に並んでいる人間はいない。なぜ俺たちより先に並んでいる?』とでも思っていたのだろう。
もっとも、並んでいる人数を見て確実に座れる状況だと分かっているため、どことなく余裕も見られる。つまり彼らもボクと同様、勝者には変わりはないのだ。
この時点で自由席に座れる残数は、限りなくゼロに近くなる。
ホームが本格的な戦場と化したのは、やはり八戸19時38分発の581M列車が到着した21時10分だった。19時54分の時とは比べものにならない数の、まさに『本隊』と言っていい大集団が列車から飛び出してくる。
――首都圏に住む19時54分到着グループの多くは、上野5時10分発の521M列車(及び乗り継ぎ列車)に乗ってきている訳だが、それが可能なのは東北本線の沿線住民や前日から上野駅で待っている者などに限られる。しかし上野7時00分発の531M列車なら、首都圏住民の大多数が乗車可能対象となるのだ。利用者はおのずと21時10分到着グループの方が多くなる。
こうして青森駅に到着した『本隊』が4番線ホームにある〔はまなす〕自由席の乗り場に雪崩れ込んできた。自由席車の列は蛇のように大きくうねって伸び、あっという間にホームは人で溢れていった。
歩いて4番線にやってきた素人たちはその状況を見て絶句し、途方に暮れる。
「マジかよ……」
「うっそぉ!」
「ハハハ、どうしようか?」
そんな諦めと困惑に満ちた声があちこちから聞こえてくる。それでも彼らに選択の余地はなく、列の最後尾に並ぶしかない。なぜなら指定席や寝台はすでに満席の上、他に北海道へ向かう列車はないからだ。
北海道へ渡る手段としては青森港から函館港へ向かうフェリーがあるが、函館より先に鉄道で行くには始発列車を待たなければならない。
「甘いっ、甘すぎるっ! マジパンよりも甘いんだよっ、キミたちはっ!」
鈍行鉄道旅行をナメてかかった素人たちを蔑むような瞳で冷たく眺めながら、ボクは心の中で絶叫する。寒さに何時間も耐えて並び、それでようやく自由席に座る事が出来るのだ。
その後も列には特急列車利用グループなどが加わり、確実に伸びていった。発車時刻の寸前には「全員が乗るのは不可能じゃね?」と心配してしまうくらいの数が集まり、まさに高度経済成長期の集団就職者たちで沸いた青森駅を彷彿とさせるような状況になる。もっとも、その目的地は上野ではなく北海道なのであるが……。
――こうして〔はまなす〕自由席争奪戦は幕を閉じたのである。
この状況で心残りがあったのは、たまたま戦いに巻き込まれてしまった地元のお年寄りたちがいたという事だ。いつもは閑古鳥が鳴いている列車が、目を疑うような混雑振りになるとは夢にも思わなかっただろう。
鉄道会社には多客時の自由席や指定席の思い切った増結や、状況に応じた臨機応変な対応など、輸送計画の改善を再考してほしい。民間企業である以上は高い利益率と効率化を求めるのは当然だが『公共交通機関』であるという事も再認識してほしいのだ。
多大なコストのかかる施策が難しいのであれば、駅における地元住民への混雑予測周知の徹底など、小さな工夫だけでも期待したい。
安い『企画乗車券』を設定して眠っていた需要を掘り起こすのは構わないが、一時の利益追求だけではあまりにも心がないのではないか?
――第3回へ続く。
今日はこれでおしまい。お疲れ様でした。
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